#06❝時間と空間❞
#06 “時間と空間”
ミース・ファンデール・ローエという近代建築に大きな影響を与えた建築家がいる。彼は最近よくいわれるユニバーサルデザインの原型である均質空間論を打ち立てた人である。彼が言ったとされる、神は細部に宿るという言葉は、ディテールの質の高さを示す言葉として建築家の間では有名な言葉とされている。彼の有名な作品の一つにファンズワース邸という個人住宅がある。ファンズワースという独身の女性医師が、当時人気のあった建築家、ル・コルビュジェとフランク・ロイド・ライトそしてミース・ファンデール・ローエ(以下ミース)に、今でいう個人の施主がコンペしてその中からミースが選ばれたとされている、実のところプランが気に入られて選ばれたのかどうかはわからない、当時の建築家はドンファンな人が多かったと僕自身は思っている。
,特にフランク・ロイド・ライトは施主の奥さんと出来てしまうのは有名な話だ、ミースも施主であるファンズワースさんと深い関係になってその後費用の問題や意匠上の違いから喧嘩別れになり訴訟にまで発展したらしいです。その後何とか完成して彼の代表作になったのだが、訴訟までいってよく完成したなと不思議に思っている人は多いと思います。
バウハウスのデザイン運動は今日のユニバーサルスペースという概念を生み出した、人の動きによって場所が様々な機能を持ってたちあわれる壁で部分を区切るのではない空間を追求し、空間の中に時間の経過を含みこむこと、つまりは時間芸術として建築を構想すること、ひとつの空間の中で複数の機能が場所を持ち、それが変化していくことによって、そこに時間が流れ始める、また建築にとって本質的な要素は基礎的な骨組みだけであって、それ以外の装飾的な要素は必要ないという考え方がバウハウスによって提唱され始めた。ミースも当然バウハウスの中にいた建築家であり彼の建築にその概念は生かされている。ファンズワース邸に話を戻すことにする。この家のコンセプトはランドスケープの中に建築を置くということだった、あくまで周りの環境が優先した、近くを流れるフォックス川の氾濫に備えて高床にしたという機能的な理由が床を浮かせるデザインになった。川の水が過去に氾濫したときの高さをあらかじめ確認していたようで、その高さまで床を上げた、結果川が氾濫した時に水の中に浮いているような光景が美しかった。壁と屋根と床から建築は成り立っている。壁と屋根は意識されるが床というとそうでもない、意識的に床を浮かせれば、ブラインドラインより高くすれば明らかに床が屋根以上の存在感を持つ、柱を建物の内部から外に置くことによって建物が吊られているような感じになる。ファンズワース邸は柱を外部に追放したり、壁をなくしてガラスにすることによって、物質としては何もない状態を作りだす、その結果、自然の木の葉の揺らぎや川面の光の輝きやガラスの反射などといった様々な建築外の要素が生成されて建築要素と等価に近いものになる、建築の物質性を削ぎ落し、現象としての事態を多く立ち上がらせること、敢えて建築を弱くすることを意図的にしている。
建築家 川嶌 守